『孤高の人』〈上・下〉 新田次郎(著)を読んで

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昭和の初期、”加藤文太郎”という伝説の登山家がいた。彼は神戸の和田岬を出て、塩屋から横尾山~高取山~菊水山~再度山~摩耶山~六甲山~水無山~太平山~岩原山~岩倉山を縦走して、宝塚へ出て元の和田岬まで全行程約100kmを1日で歩いたというまさに超人的な体力を持っていた。当時はまだ登山というのは高級なスポーツだったが、当時の彼は普通の社会人だったため、装備やガイドにお金をかけられず、自分で創意工夫した服を着て地下足袋で山行を行っていた。このため彼は「地下足袋の文太郎」と呼ばれるようになった。

やがて彼は、日本アルプスに登り始め、数々の山に単独で登頂していった。そんな中でも槍ヶ岳の冬季単独登頂は彼の名を世間に知らしめるとことなった。

そんな彼も、結婚し、子供も生まれ、山から遠ざかっていたとき、長年の友人の宮村健がパートナーを願い出て、これで最後の冬山にすると言って、槍ヶ岳の北鎌尾根に向かうが、宮村健の誤った判断により、二人とも遭難し帰らぬ人となってしまった。

この本は山岳小説の最高傑作とか、山をやる人の必読の書というふうに聞いていたので読んでみた。

加藤文太郎は実際に昭和の初期に実在した人物で数々の伝説を残し、冬の日本アルプスに消えていった人だ。いくつかのエピソードは実際にあったようだが、人間像は小説とはかなり異なるようだ。たしかに、小説内では超寡黙な人物だが、ほんとにここまで寡黙だと社会生活に影響が出てしまうだろう。この部分は作者がデフォルメしたに違いないだろう。容姿に関しても小説ではものすごい表現をしているが、実際に彼の写真を見てみると、そんなこともなくむしろそれなりに男前ではないだろうか。まぁ、小説は小説、実際は実際ということでこの本を読んでみた。

物語自体はたんたんと進んでいくのだが、かえってそれが読み手の想像力をかき立て小説の世界にどっぷりとはまってしまうのだ。この作品も『八甲田山死の彷徨』と同じで、「やめられない、止まらない」状態で上下巻で800ページ強あるが一気に読んでしまった。とにかく実際に存在した人物なので、その人物像がとても気になってネット等で調べて見るうちに”加藤文太郎”という人物にすっかりはまってしまっている自分がいた。彼の残した『単独行』も読んで見たいと思い調べてみたら、2月22日に青空文庫で公開されるとのことなので、なんてタイムリーなんだと思い、22日が待ちどうしい。

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