表題作の『強力伝』や『孤島』を始め、『八甲田山』、『凍傷』、『おとし穴』、『山犬物語』と短編集だが、どの作品も新田次郎らしい作品で、とても面白く読めた。
ほとんどの作品が実話を元に構成されていて、『八甲田山』などは、『八甲田山死の彷徨』に通じるものがあり、短編ながら吹雪の中で隊員が死んでいくシーンなどは『八甲田山死の彷徨』に勝るとも劣らない描写で、読むものを引き付けて離さない力がある。
特にお気に入りなのが、『凍傷』だ。これは富士山に気象観測所を作ろうという男の話なのだが、作者の新田次郎氏もここの観測所に勤務していたこともあるという、まさにこの作品は彼にしか書けない物語だろう。そんな人の書いた作品なので冬の富士山頂の様子などとても詳細に書かれていて、ついつい作品の中に吸い込まれてしまいます。
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