【OD本】『剱岳―線の記 平安時代の初登頂ミステリーに挑む』髙橋大輔(著)を読んで

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目次

出会い

僕が初めてこの本を書店で見かけた時、そのタイトルからやはり、真っ先に新田次郎の『剱岳 点の記』を思い浮かべました。『点の記』と『線の記』似てますよね。それもそのはず、この『線の記』はある意味『点の記』へのアンサーブック(僕が勝手に言っているだけです)になっています。

なので、新田次郎の『点の記』を読んでいた僕は、この本を手に取ってパラパラとページをめくってみて、思わずニヤリとしました。そして、これは読まなくては・・・と、速攻レジに持って行きました。

著者の名前

書店では気が付かなかったけど、家に帰ってきて、じっくりと本を見たら、著者さんの名前が髙橋大輔となっているのに気が付きました。あれ、この名前知っているぞ。あのオリンピックの人だよね。へぇ〜、こんなこともやっているのか〜、と納得してしまいました。が、よくよく考えてみるとそんな事はないですよね。本の最初の方に書いてありましたが、同姓同名の別人でした。

この著者さんも今まで何度も言われたんだろうな〜、という事は想像に難しくありませんよね。そういう僕の本名も、実はある芸能人さんと同姓同名なのです。しかし、髙橋大輔さんのように、誰もが知っている人というわけではないので、逆にSNSで本名が使えなくなっています。誰もが知っている名前なら、話題作りというか、会話の糸口にでも利用出来るのでしょうが、その名前を知っているかと10,000人の人に聞いたら、恐らく10,000人の人が知らないと答えるでしょう。

しかし、偶然にも僕はその人が出ていた作品を見ていました。その時はまだその人が自分と同姓同名だとは知りませんでしたが、それから10年以上経ってから、偶然に同姓同名であることを知りました。10年以上も前に見た作品でしたが、その人の事はしっかり覚えていて驚きました。もちろん、それ以上に同姓同名である事に驚きましたが・・・。

話が大きく脱線したので元に戻します。

僕は剱岳には登っていない

実は僕自身は山登りを趣味として15年が経ちましたが、まだ剱岳に登っていません。ついでい言うと、槍ヶ岳にも登っていません。(ここからしばらく山登りをしていない人にとっては分かりにくい話題になります)

日本のてっぺんに立ち、奥穂を登って、白峰三山を縦走して、前穂、北穂と順調に高山をクリアして、次は槍ヶ岳か剱岳かな〜。なんて考え、立山の登山地図を買った頃・・・

ロングトレイル との出会い

・・・僕はロングトレイルと出会い、恋に堕ち、それまで順調だった山登り人生のレールから大きく脱線しました。そして、その脱線人生は、世の中が令和になった今でもまだ続いています。そして、まだまだ続きそうです。って、また脱線してんじゃん!

まぁ、この辺のロングトレイルとの出会いとかは、いずれ記事にするつもりなので、ここでは省略!

そんなわけで僕は剱岳にも槍ヶ岳にも登っていません。

お勧めします

本のレビューなのに、肝心の本の内容に全然触れてないじやん!

って言っても、ネタバレ的な事は書けないし、散々脱線して無駄な文章を読ませてしまっているので、最初に結論から言います。

お勧めします。

以上。

補足すると、
新田次郎の『剱岳 点の記』を読んだことがある人、
映画『剱岳 点の記』を観たことがある人、
実際に剱岳に登ったことがある人、
剱岳に登りたいと思っている人、
にはお勧めします。

つまり山登りを趣味としている人はほぼ当てはまりますね。それプラス、日本の歴史、山岳史に興味があればなおお勧めです。

ただし、冒頭でも書きましたが、新田次郎の『点の記』へのアンサーブックになっているので、まだこの本を読んでいない人は、先に『点の記』を読んでおくと本書はさらに楽しめると思います。

ふん! 俺(私)には本を読んでる暇なんて無いぜ! と言う方は映画『点の記』を観ても良いと思います。この映画はよく出来ているので、普段本を読まない人はこっちの方がお勧めかな?
この記事を執筆している時点で、アマゾンプライムでも観ることができます。

本の内容

んで、やっとここからが簡単に本の内容に触れていきます。もちろんネタバレは避けます。

点の記から線の記

【点の記】
 まずは、本書の発端のお話の『点の記』に関して簡単に説明しますと、明治の終わり頃、日露戦争の後に日本地図の空白地帯であった立山周辺を埋めるべく、陸軍の陸地測量部(現在の国土地理院の前身の一つ)の柴崎芳太郎に白羽の矢がたちます。地図を作るためにはその計測の基準になる点(三角点)を設定して、それぞれの基準点から、他の点を計測(三角測量)して地図を作っていきます。つまり、大小様々な三角を地面に描いていくようなものです。その時、注意するのはそれぞれの基準点から他の基準点が目視出来なくてはなりません。三角点が山のてっぺんや見通しの良い場所に設置されているのはそのためです。皆さんも山頂で三角点を見たことがありますよね。

そこで、その基準点の設置に白羽の矢が立ったのが、360度グルリと見渡せる剱岳でした。しかし、剱岳は弘法大師がワラジ三千足を費やしても登れなかった(誰が見ていたんだろ?)難攻不落の山。ちょうど時を同じくして、日本に近代登山が立ち上がり、小島烏水率いる日本山岳会も、剱岳の初登頂(その時はまだ誰も剱岳には登っていないと思われていた)を狙っているという。そうなると世間はどちらが先に登るのか、ということが気になるもの、新聞等がこぞってその話題を取り上げると、陸地測量部は陸軍の所属ですので、その上層部は、遊びで山に登っている奴ら(日本山岳会)に負けることは絶対に許さん! と柴崎隊にけしかける。当人たちはそれほど気にはしていないけど、やはり気になるようで、先に山に入っていた柴崎隊に日本山岳会が山中ですれ違って、情報を求めるも、つれない態度・・・。

そんな中ついに柴崎隊は剱岳の登頂に成功する。しかし、山頂の一角で人足たちがある人工物(具体的には本を読んで下さい)を見つけます。初登頂だと思っていたけど、すでに登っている人がいたのです。しかも、それを知った陸軍の上層部達は激怒します。柴崎芳太郎は日本地図の空白地帯を埋めるために頑張ってきたのにがっかりです(決して初登頂合戦をしていたわけではない)。しかし、小島烏水率いる日本山岳会はその偉業を讃えます。一番の敵だと思っていた人たちが実は柴崎隊の偉業の一番の理解者だったということです。

まぁ、ベースは史実を元にしていますが、創作もかなり混じっているようですね。最後の日本山岳会のくだりなどは完全に創作です。これは後に小島烏水自身がそのような競争は無かったと書いています。しかし、近代登山の黎明時のお話は山登りをしている僕にとっては面白く、一気に読んでしまいました。映画などは何度も繰り返し観ています。山登りを趣味としている人は本や映画を観ていなくてもこのお話は知っていると思いますが、一度はこの本を読むことをおすすめします。

【線の記】
 そして、本書では新田次郎の『点の記』ではあまり深く触れられなかった山頂にあった人工物に焦点を当てています。いつ、誰がそこにそれを置いたのか? それは本書の一番のテーマです。そして完全にノンフィクションになっています。著者が実際に立山周辺を歩き、もちろん剱岳にも何度も登っています。関係者に話を聞き、現在、確認可能な資料を読み、様々な人との出会いがあり、ファーストクライマー(最初に登り、その人工物を置いた人物を著者はそう呼んでいます)の実像をあぶり出していきます。

著者はまず、5W1Hを定め

剱岳ファーストクライマーの謎

いつ

山頂に立ったのは何年か

誰が

山頂に人工物を置いたのはだれか

どのように

どのようにして山頂を極めたか

どの

どのルートから山頂にたどり着いたのか

どこに

山頂のどこに人工物を置いたのか

なぜ

なぜ山頂に立とうとしたのか

ひとつひとつの問題を解くようにファーストクライマーにせまります。

正直言って僕は、この逸話は有名な話だし、小説にもなっているし、映画にもなっているし、たくさんの専門家が調べ尽くしているので、今更新しいことが出てくるのか? とか思っていました。

たしかに、剱岳山頂一帯は遺跡扱いになっているようで、過去に考古学調査が行われているようです。だから当然そこに関する事は全て調べ尽くされているのと思いきや、実はまだまだ調べる事はあったって事ですね。本書を読み進んでいくうちに、小説や映画では描かれていない事実も出てくるし、また、逆に小説や映画で描かれていて、これは史実だろうと思っていたことが、実は創作であったというようなこともたくさん出てきます。細かな事はここでは触れることは出来ませんが、とにかくワクワクが止まりませんでした。僕も以前山岳遺跡の調査のお手伝いをした事があるので、その時のワクワクが蘇ってきました。

昭和に生まれ、山岳信仰とは無関係な人生を歩んできた僕でさえ、山で神々に出会ったこと(神々しい経験をしたということ)が何度かあります。では、科学という色眼鏡など無い時代の人々の目には山々はどのように写っていたんでしょう? もっとピュアな心で山頂を目指していたのかもしれませんし、現代人と同じような悩みを持っていて、神に縋り付くような思いで山頂を目指したのかもしれません。しかし、どちらにせよ、その山のてっぺんに立ちたいという情熱はそう変わらないんじゃないかな、と思いました。

僕自身この本を読み進めている内に、古の修験者の想いに少しだけ触れたような気がします。

最終的に著者はファーストクライマーに辿り着きます。しかし、それが本当のファーストクライマーなのかは誰にも分かりません。たとえタイムマシンがあったとしても、剱岳の山頂がカタチ作られた瞬間から、最初のひとりが登ってくるまでそこで待ち続けない限り、本当のファーストクライマーを知ることは出来ません。

しかし、本書でたどり着いたファーストクライマーが現時点では一番リアルファーストクライマーに近づいたと思います。いや、厳密に言うと、リアルファーストクライマー像に近づいたと思います。

もしかしたら今後、古い農家の倉や古いお寺の屋根裏などから確信的な資料が出てくるかもしれません。ここは日本なのでその可能性は充分にあると思います。そうなったら、本書でたどり着いたファーストクライマー像が一気に崩れ落ちるかもしれません。しかし、例えそうなったとしても本書が色褪せることは無いと思います。また、著者自身も真実に少しでも近づくことが出来るのなら、そうなることを望んでいるんじゃないかな? とも思いました。まぁ、これは僕の勝手な想像ですが・・・。

逆に言えばそう思わせるくらい、本書での調査は徹底しています。たとえ新しい資料が出てきても、あくまでそれは本書の続編だということです。

なので、個人的には『続・剱岳 線の記』が出るのを楽しみにしています。

読み終わって・・・

僕自身はまだ剱岳には登っていませんが、この本を読んでぜひ登ってみたくなりました。恐らく登ったことがある人でも再び登ってみたくなると思います。今すぐにでも立山に向かいたいのですが、この時期は完全に雪で閉ざされていますし、僕自身最近は高山から離れていたので、剱岳の前のトレーニングは欠かせないと思います。しかも、このご時世、そうそうひょいひょいと山には行けません。なので、コロナが収束したらすぐにでも行けるように近所の山でのトレーニングに励むことにします。

世界中のコロナが一日でも早く収束することを願って・・・。

おすすめ度(★★★★★ 5.0)

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