冬の穂高で転落事故が起こった。装備していたアイゼンの爪が折れて転落したのだ。始めは単なる事故だと思われたが、アイゼンの不自然な折れ方に疑問を持った警視庁捜査一課の白鳥完一が捜査に乗り出す。やがて、巧妙に仕掛けられた連続殺人事件へと発展してゆく。
山岳ミステリーというジャンルは初めてだった。そもそも推理モノはあまり読まないのだが「山岳」というところに惹かれて読んでみたのだが、推理モノとして読むと大分物足りない部分がある。捜査する人間がいくら窓際族だとは言え仮にも警視庁捜査一課に所属する刑事なのだから一般的な捜査の手法は周到して欲しかった。ほとんど思い込みと、行き当たりばったりな捜査で犯人を挙げるのだが、これがあまりにもご都合主義で推理モノ特有の「ビックリ!」が無い。仮にこれが刑事ではなく普通の人が犯人を推理するのならまだ納得しただろう。
例えば、横浜から静岡まで4時間で往復出来ればアリバイが崩れる。というところで、この刑事はサイレンを鳴らした警察の車で150km/hも出して往復出来たので容疑者も十分に往復できたはず、なのでアリバイが崩れた。という結論を出しているが、実際は150km/hも出せばオービスが光るだろうし、仮にそこだけ速度を落としたとしても高速道路に乗っているのだからN-システムに記録されているはずである。容疑者が乗っている車がわかっているので、N-システムに照会すれば何時どこのインターから乗って、何時どこのインターで下りたかぐらいは簡単に判るはずである。なのにこの刑事はなぜかそれをしない。まるで素人のような捜査方法しか行わないのだ。だったら初めから素人に推理させた方が、よっぽどリアリティが出たのではないだろうか・・・。
この作品を山岳小説として読むと、まぁ、面白いのだが、もう少し突っ込んで書いても良かったような気がする。どうせならバリバリの登山家が推理しても良かったのかもしれない。その方が登山シーンももっと増やせただろうし、前述の変な部分が大分解消されたのではないだろうか・・・と思う・・・。