すっかり忘れていました。
それは僕の山の不思議体験の中でも唯一、恐怖を感じた(高度への恐怖は別)出来事でした。
でも、すっかり忘れていました。厳密に言うと、頭の隅っこにずっと引っかかっていた、と言った方が正しいのかも知れません。それは、この企画の事を考えている時はいつも、あぁ、もっとこの企画にふさわしい体験をしているはずなんだけど、それが何だったのか全然思い出せないよぉ〜。ってイライラしていました。この不思議体験シリーズは2020年の9月に第一話を公開しているので、最低でもこの1年チョットの間は思い出せていなかったということですね。
この【山の不思議体験】シリーズは僕が山の中で体験した不思議な出来事について書いています。全て実際に体験したことです。とは言うものの、ソロで登っているはずがいつの間にか半透明の人と一緒に登っていた。とか、避難小屋に泊まっていたら、夜中に扉を叩く音がするので、開けてみたら誰もいなかった。とか、夜テントで寝ている時に、外からたくさんの兵隊さんが歩いているような音が聞こえた。とか、そんなすごい体験ではないんです。そもそも、僕にはアッチの人が見えるような特殊能力なんて無いですし、もちろん、金属のスプーンも力ずくでしか曲げられません。
そんな僕が山の中で、アレって何だったんだろう? と思うような経験が一度だけあったんです。それが今回のお話です。
しかし、僕はそのことをすっかり忘れちゃったんですねー。何故でしょう? もしかしたら、あまりもの恐怖で、僕自身が無意識のうちに記憶から消そうとしていたのかもしれません。いやいや、そんな大そうな頭ではないので、ただの物忘れでしょう。
でも、ふと思い出しました。何かきっかけがあったわけでもないです。ただ思い出したと言うだけです。
と言うわけで、今回の【山の不思議体験】はその時のことを書きたいと思います。そうすれば、何で今まで忘れていたのか? という疑問の答えが見つかるかもしれないですしね・・・。
コース
その日のコースを簡単に説明します。場所は、僕のホームグラウンドの丹沢です。
丹沢山塊の東端の宮ヶ瀬湖畔にある大棚沢広場に車を停めて、そこから南下して、土山峠から入山。辺室山、(大山)三峰山、と縦走して、不動尻に下山。この後に詳細を書きますが、不動尻からは、舗装された林道を進み、広沢寺温泉を経て、厚木の七沢温泉に出るルートと、再び登山道に入り、谷太郎川沿いを進み、清川村の煤ヶ谷(すすがや)地区に出る2つのルートがあります。
車が停めてある大棚沢広場に戻るには、舗装路を進んで七沢温泉の方に出るのは距離があり過ぎるので、今回は谷太郎川沿いのルートを進んで煤ヶ谷に出るルートを選択しました。その谷太郎川の河原で見てしまったんです。アレを・・・。
夕暮れ
いつも無駄にダラダラと書いているので、今回は話の核心部の直前から始めますね。
山登りを始めてからまだひと月程度しか経っていない僕にとっては、なかなかハードだった辺室山から大山三峰山を経て、不動尻に下りてきた。思っていたよりかなり時間が掛かってしまった。まだこの頃の僕は自分の歩くスピードをコントロールするどころか、把握さえ出来ていませんでした。それに山の中では街中より早く陽が暮れるということも理解していません。大山三峰山に到着したのが午後2時、すぐに下山を開始して、不動尻に到着したのが午後3時30分。辺りはまだ暗くはなっていないものの、12月の山中はすでに夕方感に包まれています。
不動尻から10分ほど進むと、七沢温泉と煤ヶ谷への分岐があります。前述した通り、七沢温泉側に出ると、車に戻るのにかなり大変なので、煤ヶ谷に向かいます。しかし、ここで僕は大きな勘違いをしていました。七沢温泉の方はずっと舗装路が続きますが、煤ヶ谷への道は谷太郎川沿いに付けられた登山道です。僕はどちらも舗装路だと思っていました。しかも、すでに辺りは暗くなり始めています。まだ山登りを始めたばかりの僕は、登山地図(山と高原地図)は持っているものの、ヘッドランプは持っていません。現在の僕ならここで、多少遠回りになっても舗装路を進むと思います。が、当時の僕は一刻も早く安全な場所(ここではバス通り)まで行かなくては、と考え、車までの最短のルートである谷太郎川沿いの登山道に向かってしまいました。
遭遇
谷太郎川沿いということで、ルートは谷の底の方に付けられています。ということは、辺りは同じ時間の街中よりかなり薄暗くなっています。なので、足早に進みます。
分岐から少し進むと、突然大きな音が聞こえました。ボッチャ〜ン。それは水の中に何かを投げ込んだような音です。僕は何の音だろう? と思いつつも、先を急がなければならないので、その音の主を積極的に探すことはしませんでした。でも、数分後に再び同じ音が聞こえました。しかも、先ほどより大きな音でした。始めはこの先で何か護岸工事でもしているのかな? と思いましたが、すでに暗くなり始めているこの時間帯にこんな山奥で工事するか? だったら何の音だろう? と、マンガなら頭の上にたくさんの「?(はてなマーク)」が浮いているのを思い浮かべながらも、立ち止まることも無く先に進みます。
谷太郎川沿いの登山道は、基本的に谷底の斜面をトラバースするように付けられています。時には川面の高さと同じになるようなこともあれば、はるか下の方に川面が見えるようなところもあります。そして、たまに谷太郎川の川原を歩くこともあります。それは、川に向かって直角に枝尾根が伸びているせいだと思います。そのせいで、川原に出た時は川面と同じ高さを歩き、枝尾根を越えようとすれば川を下の方に見ることになります。
そんな所を歩いていて(例の音は数分間隔で聞こえてくる)、ある川原に降りた時に、音の正体が分かりました。
そこの川原はかなり広いところで、僕が歩いているところから川までは20mほどはありそうです。その川の淵に1人の人が立っているのが見えました。その人は人の頭より大きそうな石を川に向かって投げていました。その人が僕の存在に気付いているかは分かりませんが、石を投げ終えたら、再び辺りを見回して、手頃な大きさの石を持ち上げて同じように川に投げ込んでいます。音の正体はこれでした。
僕は何をやっているんだろう? と思いつつ歩を止めることなく、目を細めて良く見てみると、その人は上下共スーツを着ていたました。足元は陰になってよく見えなかったけど、革靴を履いているようにも見えます。しかも、ザックのような山道具は見えません。
恐怖
なに? なに? なに? あの人何やってるの? 暗くなり始めたこんな山奥で何やってるの? しかもスーツを着て・・・。
僕は、あぁ〜、これは関わっちゃいけない人だな。と思い足早に隣の枝尾根取り付いて、振り返ることも無く先を急ぎました。僕は一度も振り返っていないので、その人は僕の存在には気付いて無いと思います。
少し歩いて、世の中変わった人もいるもんだな〜。と思いつつも、ひとつの異変に気が付きました。先ほどから、定期的にしていた音がしなくなっています。まぁ、山の中なので尾根の陰になったり、風向きだったりで、音の聞こえ方はかなり変化するのだが、この時の僕はまだ山登り始めてひと月ほどしか経っていないので、そんなことは知りません。あっ! もしかして、僕の存在に気が付いた?
いや、たとえそうだったとして、、、どういうことだ?
それでも僕は足を止めることは無く歩き続けました。それから数分後、再び異変に気が付きました。誰かが後ろから付いてきている気配がするんです。厳密に言うと、自分以外の人の足音が微かに聞こえるような気がします。さっきのスーツの人?
僕はしばらくそのまま歩き続けたけど、我慢出来なくなり、水分補給をするフリをして、登山道の脇に避けて、立ち止まってみました。これで少なくても自分の足音はしなくなるバズだ。そこで、そっと耳を澄ましてみる。先程まで聞こえていた自分以外の足音は全く聞こえなくなりました。あれ? ただの気のせいだったのか? しばらく立ち止まっていても誰かが来る気配は無い。なぁ〜んだ。やっぱり、ただの気のせいだったのか。
僕はチョット安心して、再び歩き始めました。闇がすぐそこまで迫ってきているので、早めのペースで歩きます。すると、すぐに再び自分以外の足音が聞こえてきました。もちろん何度か後ろを振り向いて確認してみるも、蛇行した山道ではそれほど遠くまでは見渡せず、怪しそうな人影は確認出来ませんでした。
僕はもう一度、水分補給のフリで立ち止まってみました。今度は、これでもかっ! ってくらい耳を澄ませてみます・・・。やはり川の音以外は聞こえません。
ん〜? と思いながらも、再び歩き始めました。すると、しばらくすると再び自分以外の足音が聞こえてきます。これはもう、自分の足音がどこかに反射して再び自分の耳に入ってきているんだ。と思うことにしました。今はとにかく少しでも早く安全な場所に出ることが最優先です。
そんな時、少し開けたところに出ました。谷太郎川の対岸に渡る橋もあります。僕は先を急ぎつつも、その橋を渡る時にチラッと後ろを見てみました。
あっ! 僕のいるところから数十m後方の木々の間に人の姿が見えました。もう、辺りはかなり暗くなっているので、顔までは見えませんが、間違いなく先程のスーツの人です。僕が後ろを確認したことには気が付いていないようです。僕はすぐに視線を前方に戻し、スーツの人には気付かれない程度、歩く速度を上げました。
そこからすぐに、舗装された林道に出ました。谷太郎林道だと思います。そこには、管理釣り場などがあるので、人の気配があり、たまにですが車も走っています。バス通りまではまだ少しありますが、とりあえずは山から下界に戻ってきました。ここまでくれば、完全に陽が暮れても安心です。チョットホッとして歩くスピードを落としました。
僕は林道を歩きながら、再び後ろを振り返って見ました。誰もいません。誰も見えません。
考えてみた
僕は先程のことを落ち着いて考えてみました。
まぁ、着ている服のことは一旦置いておくとして、そもそもその人は何をしていたのだろう?
Q. 川に大きな石を投げ込む理由とは?
A1. ただ単に遊んでいただけ。
いやいや、真昼間ならともかく、もう陽が落ちかけて、辺りは薄暗くなっているのにそんなことする?
A2. 何らかの理由により、その川を渡る必要があった。
季節的にそのままザバザバ川に入るのはリスクが高いので、川に石の橋を作ろうとしていた? 僕は川のそばまでは行っていないので、はっきりしたことは言えないけど、川幅は5メートル以上はあったように思います。深さは全くわかりません。
そこの川の向こう側はほぼ垂直の崖になっていて、高さは7〜8メートル以上はあると思います。しかし、その崖の上には白いガードレールが見えます。僕が今歩いている登山道は谷太郎川の左岸側に付けられています。右岸側は川面からはかなり高い位置に七沢温泉に向かう林道があります。まだ不動尻の分岐からそれほど来ていないので、谷太郎川を挟んで登山道と林道が並んでいます。登山道はバス通りに出るまで谷太郎川沿いを進みますが、林道はしばらくは谷太郎川の右岸側にあります。しかし、もう少し進むと、大きく方向を変えて七沢温泉方向に向かいます。
仮に、もし、その人が何らかの理由で山中を彷徨い歩き、たまたま川原に出てしまい。その川の向こう側にガードレールが見えたら? 僕なら死に物狂いで川を渡り、垂直の崖をよじ登り、そのガードレールに向かうかもしれません。いやいや、そこまで切羽詰まっているのなら、人影(僕)を見たなら助けを求めるでしょう。よっぽどシャイなのか、はたまたプライドが高く自分の遭難を認めたくなかったので、黙って僕に付いて来たってことでしょうか?
いやいや、かなり強引だよな。そもそもスーツを着ている理由が分からない。ここに彷徨い出るってことは、この辺りのバリエーションルートを歩いていてルートを見失ったって考えたら、そこそこ山の経験が必要なので、そんな人がザックも持たずにスーツ姿で入山するだろうか?
いっそのこと、街中でUFOにでも攫われて、気が付いたらここの川原にいた。ってシナリオはどうだろう? それなら、スーツを着ているのも、山道具を持っていないのも、登山道の存在に気が付かず、目の前に見えているガードレールに向かおうとしていたのも、全て説明出来ます。
うん! きっとそうだ! あっ! でもそれなら人を見かけたら、助けを求めるよね。でも、もし、そのUFOに乗っていた宇宙人が僕そっくりだったら? きっと声を掛けるのは躊躇するよね。なので、この人は宇宙人なのか人間なのか、半信半疑で僕に気が付かれないように後を付けたってことか〜。そうか、そういうことだったんだな。はぁ〜、スッキリした。ってオイ!
と、くだらない事を考えながら、すっかり暗くなった林道を進みました。
消えた?
林道まで出て安心した僕は、後ろを歩いていた人が気になって仕方がなかったので、歩くペースを極端に落としました。こうすれば絶対に僕に追い付いてくるでしょう。別にその人に話しかけようとは思わないけど、その時の僕は本当にスーツで山歩きをしていた人がいたって事を確認したかっただけだったと思います。
たまに後ろを振り返りつつ、たまに立ち止まったりもしながら林道を進んだけど、一向に後ろから人が来る気配がない。一本道なので、違う方に行くことはない。辺りはすっかり暗くなっているので、再び山に戻ったとも思えない。
僕が振り返って見た時、人影はせいぜい20m〜30m程度しか離れていなかった。普通に歩けばほんの数分の距離だ。これだけペースを落として歩いているのに、一向に追い付いてくる気配は無い。
えっ? 消えた?
まさかね、恐らくその人も林道に出て安心したので、一休みでもしているのでしょう。僕は無理にでもそう思うことにしました。
その後は、無事にバス通りに出て、車の停めてある大棚沢広場まで戻れました。その時はすっかり夜になっていました。
結局、その人は何だったんでしょう? こんな印象的な体験をしていながらすっかり忘れていたのはなぜでしょう? その他にも色々と疑問はあります。しかし、ここはあまり深く追求しないで、疑問は疑問のままでいいのかもしれません。あまり深く考えるのはやめましょう。最初に、今まですっかり忘れていたことの疑問の答えが見つかるかも、、、なんて言っていましたが、すべての疑問に答えを出す必要もないでしょう。もし、答えを出さなければならないことがあるとするならば、それは、僕が忘れていたということよりも、なんで夕暮れ迫る山中にスーツを着た人がいたかってことの方が100万倍気になることだと思います。でも、残念ながら僕はこの疑問に答えることは出来ません。それは、この記事を読んだ読者さんたちがそれぞれで想像してみてください。僕が考えるよりよっぽど合理的な答えが見つかるかもしれませんので・・・。
ちなみにそれ以降はその谷太郎川沿いの登山道には行っていません。今回この記事を書いてみて、もう一度行ってみたい気もフツフツと湧いて来ますが、もし、また、スーツを着た人がいたらと思うと、、、。
ボッチャ〜ン。
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