当初の予定ではこの《迷走編》は1本で終わるつもりでしたが、実際に書き始めたら長くなったので、3本(《早戸大滝の章》《柏原ノ頭〜茨菰山の章》《ジョン・ミューア・トレイルの章》)に分けることになりました。そのせいで、多少記述がおかしいところがありますが、この3本を1本分の記事として読んで頂けると辻褄が合うと思います。
今回は『早戸大滝編』です。道迷いですね。山登りをしていると、道迷いまではいかないものの、ルート間違いなんかは、1回や2回や3回、またはそれ以上の経験をしたことがあるんじゃないでしょうか? 僕はたくさんあります。
しかし、このルート間違いが、道迷いになり、やがて遭難につながります。逆に言うと、ルート間違いの段階で気がついて、正しいルートに戻れれば、遭難のリスクはかなり減らせるんじゃないでしょうか?
もっとも、これはルート間違いが遭難の始まりの場合ですが、例えば、滑落から始まる遭難の場合はこれにあたりません。過去の遭難の事例を見ても、その始まりは色々なパターンがあります。なので、過去の事例を知っておくのも、また、遭難を未然に防ぐひとつの方法だと思います。まぁ、このページでは扱いませんが・・・。
あくまでここでは、僕自身が体験した山中での迷走体験です。これも『転がる編』同様、生死に関わるような、重大な事例はありません。そもそも僕は山登りを始めた最初からGARMINのハンディGPSを持っていたので、自分自身の位置が分からなくなるような経験は(あまり)ありません。ルート間違いにせよ、道間違いにせよ、遭難するってことは、自分の位置が分からなくなることから始まると思います。なので、GPSは僕の装備の中では重要装備のひとつになっています。
しかし、GPSで自分の位置が分かったところで、怪我をしていたり、地形的に脱出出来ない(井戸に落ちるとか)ような場合は自分の位置が分かっても、自力での脱出は難しいので、遭難は奥が深いです・・・。
繰り返しになりますが、はっきり言って、今まではそれほど深刻な道迷いはありません。逆に言えば、道迷いをしても遭難までは発展していない、運の良い道迷いだったとも言えます。これは完全に個人的な意見ですが、死なない程度のミスは、なるべく早いうちにたくさん経験しておくべきだと思います。ただし、ミスをミスのままにしないで、なぜそうなったか? 原因は? そして、対策は? と考えることが大事だと思います。
なので、今回はただ、道に迷ったよ〜! っていうのではなく、何故そうなったか? そして、どうすれば防げたかも考えていきたいと思います。
早戸大滝
ひとつ目は、僕が本格的に山に入った最初の時の事です。じつは僕の山登りは山に登ることから始まってはいません。過去の記事で何度も書いていますが、最初は幻の滝の写真を撮りに山に入ったのが、山登りにハマるきっかけになりました。
そこは前半こそ、登山道ですが(山と高原地図では点線になっていますが)半分以上は沢歩き、と言うか河原歩きになっています。何度も何度も沢を渡りますが、まともな橋は1本もありません。まれに設置されても、大雨の後はことごとく流されます。そうなると、裸足になって渡ることになります。はっきり言って、素人が行くようなところではありません。その時の僕にしてみれば、まさしく大冒険です。しかも、家からそれほど離れていない場所にこんな経験が出来る場所があったのか!!! という驚きもありました。
そんな経験は、普段の単調な生活ではありえません。ちょっと視点を変えるだけで、こんな経験が出来るのは、まさしく目から鱗が落ちる思いでした。結果、その体験が忘れられず、15年以上もに山に通う羽目になっています。
ちょっと脱線しましたが、最初の道迷いは、最初の山歩きの時に経験しました。まだ、山のことは何も知らない時です。本当に何も知りませんでした。装備もザックはカメラ用ですし、服はもちろん山用のものは持っていないので、ジーンズにウィンドブレイカーで、山装備と言えるのは、この日のために買ったリーボックのトレッキングシューズだけです。
そんな僕でも下調べをしっかりしていたせいか、無事に滝に到着して、写真を撮り、帰路に着きました。
河原地帯は、苦労しましたがなんとか無事に通過して、後は登山道地帯を登山口まで戻るだけです。
基本的には来た道を戻るだけです。何も難しいことはありません。河原歩きの部分は大雨のたびにルートの変更を余儀なくされるのでルートは不明瞭ですが、登山道の部分は1本道です。踏み跡もしっかり付いています。そもそも、植林地ですので、しっかりとした作業道が付いています。間違えようが無いのです。しかし、間違えました。いや、間違えたわけではありません。自ら選択して道を外れました。
行きには気が付かなかったのですが、帰りに登山道まで戻って来た時に正面に柵が見えました。しかも扉が付いています。今ならそれが鹿を避けるための柵だということは分かりますが、始めての山歩きです。そんな知識はありません。単純に扉があるんだから、そこから何処かへ抜けられるのだろう、と考えました。一応、地図で確認します。方向的にこの扉をくぐればショートカット出来そうです。始めての山歩きで疲労はかなりのものです。少しでも歩く距離が短くなるのなら、と、扉をくぐりました。
始めこそ、うっすらとした踏み跡がありましたが、それもすぐに消えました。そこで引き返せば良かったのですが、そうはせず、木に掴まりながら、急な谷を下ってしまいました。
今でこそ、その急な斜面を登り返すことはできるでしょうが、当時の僕には垂直の壁にしか見えず、登り返すなんてとてもじゃないですが無理です。先に進むしかありません。
下った谷の反対側の斜面には、わずかな獣道があり、手足を総動員して、なんとかよじ登り、先に進みます。踏み跡なんて無いので、カンです。こっちの方向に行けば、登山口に出られるんじゃないかと思い進みます。もちろん、その根拠なんてありません。そもそも、山の中では谷に下りたり、尾根に登っている内に方向はズレます。真っ直ぐ進んでいるように思えて、実はかなり曲がっているもんです。
当たり前ですが、やがて、おかしなことに気付きます。あれ? そろそろ考えていた場所に出るはずなのに、いくら周りを見渡してみても、それらしい登山道は見つかりません。
そこで初めて、自分が考えていたルートから外れている可能性に気が付きました。ここで取る行動はいくつかあります。まず、来た道を戻る。しかし、それはもはや不可能です。少なくても、その当時の僕には無理でした。次に考えられるのは、セオリー通りに上に向かう。しかし、当時の僕にはそのセオリーもありませんでした。逆に今考えると、ここで上に向かうのはリスキーです。それはその付近には山頂が無いからです。大抵の山頂には登山道があり、そこから戻れるのですが、ここではちょっと事情が違います。一応山頂らしきものはありますが、山と高原地図には登山道の記述はありません。その辺りはバリエーションルートばかりなので、万が一登山道に出ても、無事に下りて来るのは、当時の僕にはまだ難しかったと思います。
そこで、実際に僕が取った行動はGPSで自分の場所を確認することです。まぁ、最初からそうすれば良かったのですが、そもそも初めての山歩きで、GPSは歩行ログを取るためのものだという認識で、その活用方法なんて微塵も理解していませんでした。
ザックからガーミンのハンディGPSを取り出し、モニタを確認しました。ログを記録しているので、自分が歩いた奇跡が表示されています。あれ? 自分の位置を示す三角マークに重なるように、来た時に通った軌跡が表示されている。つまり、今自分が立っているところは来た時に通っている? いやいや、ここは全く見覚えがないし、そもそも登山道でも無い。来た時に登山道から外れた記憶は無い。GPSを拡大してみる。すると、三角マークとログの軌跡が離れていく。縮尺て1/10くらいまで拡大すると、今自分が立っている所から3mくらい離れたところに来た時に通った登山道があるように表示されていれる。その方向をよく見る、、、一段下がったところに登山道が確認出来た。
実は登山道のすぐ一段上を歩いていたのに、藪で見えなかっただけだった。一応は自分が想定してちたルートを進んでいたということか・・・。
結局は、無事に登山口に戻れたわけだけど、やはりこのやり方はダメですね。それほど大事には至らなかったけど、ここて、僕は横着をしてショートカットするのはダメなことだということを学びました。それからはこのようなショートカットは行っていません(たまにしか)。予定が大幅に遅れ、が真っ暗になってしまったとしても、多少遠回りになったとしても、通り慣れたルート、または安全なルートを選ぶようにしています。そんな時、いつも頭の中をこの言葉が回り出します。急がば回れ、と。
そもそも、今回の道迷いの発生原因は、単純ですよね。山に不慣れな自分が、横着したのが間違いでした。尾根をひとつ登って下りればいいんじゃん、と軽く考えていました。反省しきりです。
でほ、今回のようなケースの場合、対策はどうすればいいのでしょう。僕の場合は一度このような経験をしたので、もう、2度とやるまい! と決意することができ、15年経った今でも、その決意は緩やかに持ち続けていますが、もし、あの時、普通に登山道を通って下山していたら、、、横着な僕のことですから、きっとどこかで同じようなことをしていたでしょう、だけど、行動は同じでも、結果が同じになるとは限りません。最悪、もう二度と山に登れなくなっていたかもしれません。
正直言って、今考えても、どうすれば防げたのかは分かりません。そもそも間違えた訳じゃないので、防ぎようがありませんよね。これは結果論なりますが、最初の方で書いた、死なない程度のミスはするべき。と言うことに当てはめると、最初にこのような経験ができたことは、ある意味、運が良かったのかもしれません。結果、こういう横着はイカンと言うことに気がついたのですから・・・。だからといって、初心者さんに「ショートカットしろっ!」と言っているわけではありませんよ。
結局、ここで学んだのは『急がば回れ』ってことですね。
その他の【山の失敗談】シリーズ
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【失敗談】番外編《勘違いの章》
今回は僕自身の経験では無く、父が経験したことです。自分の経験ではないので、ここに書くべきか悩みましたが、チョットした勘違いが、遭難を引き起こしてしまう可能性があり、しかも、それは、誰でも被害者になり、加害者(と言っても、決して悪意がある加害者ではなく、善意の加害者なんですが)になるかも・・・というようなことなので、書くことにしました。 -
【失敗談】迷走編《世附権現山〜ミツバ岳の章》
自分もここの山域でルートミスした事があるのを思い出しました。具体的に亡くなられた方がどのようなコースを辿っていて、何処で迷われたのかは分かりません。しかし、この時のはいつもより象徴的だったですし、あぁ〜、人ってこうやって誤ったルートに入って行くんだなぁ。と思える内容でしたので、詳しく書いてみたいと思います。 -
【失敗談】撤退編《初めての富士山の章》
僕が初めて富士山に登った(登ろうとした)のは、2006年06月のことでした。それは山登りを始めてまだ半年程度しか経っていない頃のことです。今回はその時のお話です。 -
【失敗談】ビバーク編《灼熱地獄の章》
今回の失敗談は『高島トレイル』を歩いていて、暑さのため計画通りに歩けず、ビバークを余儀なくされ、途中でリタイアしたというお話です。ビバークと言うと、雪山で雪洞を掘って、震えながら一夜を明かす。なんてイメージを持っている人も多いのではないでしょうか?しかし、今回の舞台は真夏の低山です。ある意味、真逆な環境ですよね。 -
【失敗談】テント編《風の悪戯の章》
まぁ、今回もいつものように、致命的な失敗というわけではありません。側から見てると微笑ましい失敗です。YouTubeにおもしろ動画としてアップすれば、そこそこの再生回数が稼げそうです。 -
【失敗談】テント編《骨折の章》
大抵のテントにはその型を維持するための骨(ポール)があります。スリーブにポールを通すもの、ポールにテントをぶら下げるもの、中には、トレッキングポールや木の枝をつっかえ棒のように使うものもあります。例外的に細引きだけでテントを維持させる場合もありますが、まぁ、これは特殊な場合ですね。 -
【失敗談】テント編《逆襲の章》
今回お話するのは失敗と言うより、考えがいたらなかったっていうお話です。僕にもう少し想像力があれば、もしかしたら避けられたかもしれないってことですね。 -
【失敗談】暗黒編
大抵の登山地図にはコースタイムが書かれています。そこそこ山登りの経験のある人なら、自分の運動能力と照らし合わせて、そのコースタイムに対してx0.8とか1.2とか掛けて自分のタイムを割り出して、山行計画を立てたりします。 -
【失敗談】炎上篇
今回は炎上編です。火にまつわる失敗談です。火にまつわると言っても、テント内でバーナーを使って、テントが丸焦げになったとか、カミナリに撃たれて丸焦げになったとか、山頂火口のマグマに落ちて丸焦げになったとか、そんな話ではありません。