柏原ノ頭〜茨菰山
次は、前回の経験から半年ほど過ぎた頃、丹沢の北の外れにある、山登りをしている人でも、知らない人の方が多いと思われる山域を歩いた時の話です。
丹沢は都心から近いのにも関わらず、その最高峰の蛭ヶ岳などはかなり奥まったところにあります。メジャーな登山口にから4、5時間、またはそれ以上掛かります。しかし、神奈川県の最高峰ということと、すぐ隣に日本百名山の丹沢山があるので、人気の山域になっています。そのせいか、バリエーションルートも多く、かなりの人に歩かれています。山行ブログもたくさんあります。
しかし、今回の場所は民家から近いにも関わらず、山行ブログも少なく、ルート情報は絶望的に少ないです。いや、少なかったです。
基本的に僕はバリエーションルートを歩く時は、地形図で確認するのは当然ですが、それと同時になるべくたくさんの山行ブログを見て、ルートのイメージを頭の中に叩き込みます。しかし、前述の通りブログ情報が少ないので、地形図でいくつかのルートの候補をあげて、実際の山行時には地形図とニラメッコしながら歩いていました。
しかし、地形図を見て思い描いていた地形と、実際の地形とはかなりの隔たりがあり、通れそうだと思っていたところが崖だったり、地形図上では緩やかな尾根で、実際にも緩やかでも、鹿柵で通れなかったりします。この山域も同様に、始めに思い描いていたルートは全て潰されてしまいました。やむなく、薄く付けられた踏み跡を辿るしかありませんでした。
柏原ノ頭までは特に問題なく到着できました。ここからは地形図とニラメッコです。
しばらく柏原ノ頭からの稜線を歩いていると、雨が降って来ました。レインウェアを着るほどでもないので、アウターのフードを被り、歩き続けました。
尾根の突端まで来ると踏み跡も無くなり、でも、ピンクテープは続いています。もちろん、そのピンクテープは登山用じゃ無いことは容易に想像出来ます。
ちょっと脱線しますが、このピンクテープ(色はピンクじゃない場合もありますがここでは便宜上、ピンクテープまたはテープと記述します)、よく山の中で目にすると思います。これを赤布(せきふ)と呼ぶ人もいるようです。しかし、経験上、それが登山者の為に付けられているのは、半分以下ではないでしょうか? もちろん、北アルプスの黒部の最深部とその辺りの里山ではその割合は全く違うとは思います。
では、登山者用以外のピンクテープは何なのでしょうか? 僕の経験上、それは、その森を管理している森林組合、または林業系の会社の方が付けています。まぁ、これは容易に想像出来ますね。なので、間違ってもむしり取らないようにしましょう。
また、そこの山を測量するために、測量士さんが設置する場合もあります。その場合はピンクテープのすぐ下に測量用のマーカーなどが置かれれていたりするので、判断はしやすいですが、測量後、しばらく時間が経つとマーカーが埋まって見えなくなったりします。その場合は判断が難しくなります。特に測量用のピンクテープは登山用のピンクテープと付け方が似ているので要注意です。
その他に、僕が実際に見た例だと、大学の先生が何かの実験用に目印として付けているのを見たことがあります。また、これは測量用と似ていますが、例えば砂防ダムなどを設置する際にも付けられいるのを見たことがあります。つまり、なんらかの工事で目印のために設置されたのだと思います、その他、正体不明のものもあったりします。
また、これは合わせ技ですが、林業系の人が設置したピンクテープに登山系の人がマジックで「←〇〇山山頂」などと書いているのも見たことがある人も多いでしょう。間違いではないものの、その先のピンクテープが、林業用のテープか登山用のテープか判断しにくくなっています。
そのほかには、釣り人や、山菜採りの人も付けていそうです。
これは、ちょっと毛色が違いますが、迷いやすい森(富士の樹海とか)の中を探索する際に、道標として付けている人もいるようです。しかし、このような人は帰りに回収しているようなので、このタイプのテープを山の中で見るのは稀かもしれませんね。
ちょっと考えただけでも色んな人がマーキングをしていますね。なので、ピンクテープがあるからとそれを追って行くのはリスクが大きいです。と言うか、僕自身過去に散々それで、騙されてきました。
また、これは個人的な考えですが、このテープは基本的に何らかの目的があって付けられています。なので、勝手に取るのはやめておいた方が良さほうです。また、落ちているからと、適当な位置に付けるのも、避けた方が良いと思います。基本的にはこのピンクテープは正当な目的がある人のみ、付けたり外した李出来ると思います。
しかし、どんなことにも例外はあります。緊急時など、助ける側でも助けられる側でも、必要ならはその時は僕も付けると思います。
脱線が長くなりましたが、ついでなので書きます。
前述の通り、山の中では無秩序にピンクテープが乱舞しています。なので、色や材質で目的が分るようにしよう。と言う意見が以前出たことがありました。例えば、登山者用のテープは赤い布を使い、林業関係は黄色のテープを使う。みたいな感じです。しかし、その後、そのルール付けが進展したと言う話は聞いていないので、恐らく立ち消えになってしまったんでしょう。
アイデアは素晴らしいと思いますが、山を利用する人はあまりにも多種多様です。ひとつのルールを決めるのは想像以上に難しいと思います。でも、いつか実現すれば、僕の迷走はグッと減るんじゃないでしょうか。
しかし、広範囲では無いものの、限られた範囲ですが、独自のテープを設置しているところもあります。それは、日本国内の一部のロングトレイルで見たことがあります。以下に、実際の写真をアップします。
これなら、適切な場所に設置すればもう迷いはしない! と、思ったら大間違い! これでもやっぱり迷うんですよねwww
脱線が長くなりましたが、本編に戻ります。
しかし、この頃の僕はまだ山登りを始めてまだ半年の、超初心者です。なので、あっ! ピンクテープだ! これを追って行けば大丈夫だろう。と考えて、ソレを追ってしまいました。しかし、登山者用ではないソレは、すぐになくなり、僕は尾根の突端の急な斜面に取り残されました。そこて、戻ればいいものを、テープは落ちて無くなっているだけなので、そのまま進めばいいんだ、と自分の都合の良い解釈をして、斜面を下ってしまいました。
尾根の斜面が終わる、つまり谷の底まであと3メートルというところで、傾斜はさらにキツくなり、ほぼ垂直といってもいいくらいでした。そこからは木にぶら下がって、ジャンプして谷の底に降りようとしましたが、先程から降り始めた雨が木の幹を伝い、そして、足元はぬかるみ、木を掴むと同時に、手を滑らせ、足を滑らせ、ドロドロの斜面を滑り落ちました。幸い怪我はありませんでしたが、背中とお尻は恐らくドロドロになっていたと思います。
うわー、やっちまった! と起き上がり、周りを見廻します。周りはほぼ360度のすり鉢状の地形をしています。雨でぬかるんでいることもあり、登り返すにはかなり難しそうです。足元には水量の少ない沢が流れています。とりあえず、見えるところのドロを落とし、顔を洗います。
顔を上げたら、すでに雨は止んでいて、木々の間から青空が見えていました。
さて、どうしよー? と辺りをよく観察します。とりあえず、進めそうなところは、、、沢を遡上するしかなさそうだ。果たしてこれでいいのか? 地形図を出し、自分の位置を確認します。尾根の突端を滑り落ち、沢に出たことにより、自分の位置が確認しやすくなっています。念のためにハンディGPSを出して確認します。間違いありません。自分の位置がハッキリしたので、あとは山頂へのルートを確認します。すると、その沢の左岸側の斜面を登れば、山頂から伸びる稜線に出られそうでした。しかし、その斜面を登るのはかなり難儀しそうです。なので、まずは沢を遡上します。しかし、すぐに高さ3メートルくらいの滝(といっても、水量が少ないので、高さ3メートルの段差といった方が良いかも)に遮られてしまいました。水量が少ないとは言っても、滝壺にあたる場所には水が溜まっています。なのでその段差をよじ登ることは出来そうにありません。
再び、辺りを確認します。すると、滝(段差)の左岸側をまず、垂直に3メートルほど登り、そこから水平に上流へ進めば滝の上部に出られそうです。しかし、地面は柔らかく、先程の雨で滑りやすくなっています。しかし、選択肢は多くありません、やるしかないです。僕は四つん這いになり、慎重に斜面を滝の高さまで直登します。そこでそっと立ち上がり、まずは自分の足場を固めます。滝の上部までは大股で2歩です。なので、1歩目が滑らずに、チキンと地面を捕らえる事ができれば、2歩目は恐らく、滝の上部に掛かっていると思われるので、そのまま、前にコケても確実に滝の上部に出られます。
1歩目の足を置く位置を慎重に定めます。手前過ぎたら、2歩目が滝の上部に掛からないし、奥過ぎても、地面を蹴る力が十分に入らないと思います。ちょうど真ん中辺りで、足がちゃんと着地でき、次の1歩のための力を込められる場所、よしっ! あそこだ! 大きく足を出して、後ろ足でしっかりと地面を蹴る! 前足が地面に着く、ここで滑れば、再び滝の下に滑り落ちてしまう。おっ! 意外に地面はしっかりしている。これなら次の1歩のために十分力を込められる。着地した足を軸にして、素早く後ろ足を前に出す。と同時に軸足で地面を思いっきり蹴る! 微妙に滑ったけど、これならバランスを崩さずに済みそうだ。2歩目は思っていたよりも遠くに着地できた。ふう〜、なんとか滝の上部に出た。そこからは緩やかに沢が続いている。10メートルも進むと、左岸側の斜面がなんとか登れそうな程度の傾斜になった。稜線までは直線距離で約20メートル、そこを直登する。木に掴まりながら、なんとか登り切った。稜線まで来ると、そこには踏み跡があり、山頂方向に延びていました。そこからは何の問題も無く、無事に茨菰山の山頂に到着し、そこからは普通に下山出来ました。
結果的に言うと、目的の山に登り、無事に下山出来たので、ヨシとしたいけど、やっぱり問題ありますよね。
こんなことを続けていると、やがて大きなミスに繋がるのは間違いないでしょう。ではここでの反省点を考えてみましょう。
まずは、計画段階でルートが曖昧なまま、実行したというのは間違いでしょう。でも、それ以上に現場でルートを見失った後も無理に進んだのは問題ありです。そもそも、場所によっては詳細が分からず、現場判断が必要になる場合もあります。そんな時、現場判断イコール最終判断になることが多いので、そんな最終判断を間違えると言うことは、最悪な状態になる可能性が高くなるということです。
計画段階で十分に見当したとしても、実行時にその計画通り行くのは稀です(僕だけ?)。結局は現場での判断が必要になります。なので、最終段階ではさらに慎重な対応が必要になります。
そう考えて、今回の山行を見直してみるとと、計画段階は置いておいて、実行時にピンクテープが無くなったあとに、尾根を下ってしまったのは完全に間違いです。雨も降り出したし、あそこで引き返すべきでした。
全ての元凶はあそこにあると言っても良いでしょう。そして、最も悪いのは、、、そう、自分自身です。万が一何かあったら自己責任なので自業自得ということになります。いや、自分だけが怪我をしても仕方がない、というのは間違いです。自分が遭難する事によって、もしかしたら、もっとたくさんの人に迷惑をかける事になるのは必至です。なので、行動と選択は慎重に行わなければなりませんね。
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今回お話するのは失敗と言うより、考えがいたらなかったっていうお話です。僕にもう少し想像力があれば、もしかしたら避けられたかもしれないってことですね。 -
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