今年(2021年)の始め頃、山雑誌を見ていたら西丹沢の世附権現山(以下、権現山)で遭難事故があり、亡くなられた方がいた事を知りました。ご冥福をお祈りいたします。
その記事を見るまではすっかり忘れていましたが、自分もここの山域でルートミスした事があるのを思い出しました。具体的に亡くなられた方がどのようなコースを辿っていて、何処で迷われたのかは分かりません。まあ、ルートミスなんて僕にしてみれば日常茶飯事なんですが、この時のはいつもより象徴的だったですし、あぁ〜、人ってこうやって誤ったルートに入って行くんだなぁ。と思える内容でしたので、詳しく書いてみたいと思います。
季節は初夏で、権現山からミツバ岳に向かっていた時の事です。その時の山行記へのリンクを下記に貼っておきます。
世附権現山に登頂した後
ミツバ岳で食べる予定だった昼食を権現山で食べ終え、次の目標のミツバ岳に向かいました。ここからは多少の登り返しがあるものの、ほぼ下り基調なので、気分は、もう下山。です。
ミツバ岳へは、権現山から西に延びる尾根を下り、途中で南(左)に曲がりミツバ岳に延びる尾根に入る必要があります。地形図を見ると、分岐点も単純そうで、どちらの尾根も広く、シンプルな地形なので、これなら何の問題も無いでしょう。と考え、完全にナメていました。
権現山を出て、広い尾根を下ります。
広い尾根を、始めこそ少し急ですがすぐに緩やかな斜面になり、ゆるゆる下っていきます。5分ほど下るとほぼ平坦になり、気持ちの良い尾根歩きになりました。木に直接書かれた赤ペンキのマーカーもずっと続いていて、これなら迷うこともなく、すぐにミツバ岳に着くでしょう。と気楽に下ります。
分岐はどこだ〜?
そこからしばらく歩くと、そろそろ分岐点があるはずなので、左側を注意深く見ながら進みます。踏み跡もしっかりあるし、木に直接ペンキで赤いマーカー(これを信じたのが間違いでした)が書かれているので、間違える事はないでしょう。
何箇所か分岐っぽいところがあったので、その都度、左に進んで確認してみる。その中の1ヶ所は特にあやしく、慎重に確認する。しかし、どうしても、先のルートが見つからなかったので、そのまま尾根を直進する。赤ペンキも続いている。
あれ〜? そろそろ分岐があるはずだけどなぁ〜? と思いつつも地図を広げて確認することもなく、進んでしまいました。やがて、明瞭な踏み跡が無くなりました。しかし、赤ペンキはしっかりと続いています。でも、なんとなくおかしいので、一度引き返して、先程あやしいと思っていた分岐をもう一度丁寧に確認します。でも、やはりその先のルートは確認出来ません。やむなく、もう一度赤ペンキに従い尾根を直進します。
先程、引き返したポイントまで戻り、さらに進むと、尾根は緩やかに南に伸びるようになります。と、同時に傾斜は急になりました。しかし、赤ペンキは下方に向かってかろうじて続いています。
あれ?
僕はおかしいなぁ、とは思いつつもどんどん下ります。もはや踏み跡は全く無く、赤ペンキだけを頼りに下っていきます。しかし、その赤ペンキもまばらになり、何度も見失いながらも下方に続く赤ペンキを辿ります。やがて、水の音がすぐ近くに聞こえてきました。いやいや、権現山とミツバ岳の間に沢なんて無いはず。しかも、この間のコースタイムは50分なのに対してすでに60分以上経っています。やはり、おかしい、
ここで初めてGPSと地図を取り出し、現在の自分がいるであろう場所を特定しました。そこはルートから大きく外れ、標高も約600m、ミツバ岳が標高約835mなので下って登り返すにしても低すぎます。
「あっ! ルートを外れてる・・・」
ここで、やっと自分が本来のルートから大きく外れ、しかも、かなり下ってきていることに気付きました。
もう、ミツバ岳を諦めて、このまま下ってしまおうかとも思いましたが、このまま下ると沢に通せんぼされるのは、水の音と地図で確認して間違いありません。しかも、ここから先はさらに急になり、このまま素直に沢に下りれるとも限りません。崖の上に出てしまう可能性もあります。そんなリスクは犯せないので、ここはセオリー通り、引き返します。
戻れ〜!
僕は振り向いて、今下ってきた斜面を見上げます。
「・・・えっ〜、ここを登り返すのか?」
そこには壁のように立ち塞がる斜面が、はるか上の方まで続いています。
「って言うか、本当にここを下ってきたのか?」
赤ペンキに導かれるまま、なかりの急斜面を下ってきてしまっていたようです。僕は、
「ふぅ〜」
と大きく深呼吸して、一歩一歩登り返して行きます。
最短で登り返すには真っ直ぐに登ればいいのだけど、もはや真っ直ぐ登れるような傾斜ではない。僕は少しでも楽に登れるように大きくジグザグに進む。我ながらよくもこんなところを下ったなぁ。と関心半分、呆れ半分で、ただただ無心で左右の足を交互に出す。
ルートを探せっ!
登り返し始めてから60分。ようやく最初にあやしいと思った場所まで戻ってきました。ここは2度ほど確認しています。しかし、どうしても気になる。3度目の正直って言葉もある(二度あることは三度ある。と言う言葉もあるが・・・)。僕はもう一度慎重に確認する。ダメ元で少し尾根を外れて進んでみる。あっ! 今までは木の陰に隠れて見えなかった踏み跡が続いているのが確認できた。
あ〜! やっぱりここだったんだ。
帰宅後、写真を確認していると、尾根上にはしっかりと、通せんぼ用の小枝が敷き詰められている。しかも、そこを避けるように、踏み跡が左に向かって伸びている。何でこんなに分かりやすい分岐に気が付かなかったんだ? 写真で見ると踏み跡もしっかりと左に向かっているのが確認できる。でも、実際にはここは2度も慎重に確認している。その時は、これほどしっかりと付いている踏み跡が見えなかった。
キツネに摘まれたような思いだ。その後、正しいルートを発見した僕は無事にミツバ岳にたどり着いた。権現山を出てから2時間半が経っていた。後で計算したらもし迷っていなかったら、権現山からミツバ岳までは約35分だったので、およそ2時間のロス。
人はたまにソレが視界には入っているのに、ソレを全く認識出来ていない時があります。山の遭難のニュースの中には、何でこんな一本道で遭難するんだろう? と思うこともあるでしょう。まさに今回はそんなことを実感した山行でした。
今回の原因の詳細を、その時の山行記に書いているので、今回はそれを下の方に引用します。
ただし、いつものようにダラダラと書いているので、ちょっと分かりづらいですが、簡単に書くと、今回使用した地図と普段使用している地図の印刷の尺度が違ったために、地図上の距離を読み間違えていたことによる思い違いが原因だったと思います。
もっと簡単に言うと「思い込み」と「勘違い」ってことですね。まぁ、これは山の道迷いの二大要素ですよね。解決方法は単純に、しっかり予習する事とマメな確認です。今回も最初にあやしいと思った分岐点で、地図とGPSで確認していれば余計な大冒険は無かったでしょう。まぁ、それが出来ないから、人は迷うんですけどねー(>_<)
では、以下が過去の僕の言い訳です。
原因(過去の山行記から転載しました)
普段、山登りで使用している地図は昭文社の山と高原地図で、今回のようにバリエーションルートを歩く場合は二万五千分の一の地形図を併用することが多いですが、今回は初めての場所と当日に決まった為に二万五千分の一の地形図を用意出来ませんでした。その代わりその2枚の地図を足して2で割ったような西丹沢登山詳細図を使用しました。この地図は情報量的には二万五千分の一の地図ですが、実際の紙面はそれを拡大して一万六千五百分の一の地図になっています。二万五千分の一の場合は地図上の1cmは実際の250m(傾斜は考慮していません)になりますが、一万六千五百分の一だと・・・(計算している)・・・165mになります。今回の場合だと権現山山頂から尾根を外れる分岐まで約2cmなので、二万五千分の一の感覚だと500mm移動した辺りに分岐ポイントがあることになります。通常私の歩く速度の計算では500m移動するのに登りだと約15〜20分(もちろん傾斜によって大きく変化します)、下りだと10〜15分ほどかかります。これを一万六千五百分の一の地図に変換すると地図上の2cmは実際の330mになります。移動時間は10分前後になると思われます。今回の実際のGPSのログを見ると権現山から分岐ポイントまで約300mで移動には約6分ほどかかっています。いつのも地形図から見る時間の感覚だとずいぶんと手前に分岐ポイントがあることになります。この微妙な感覚のズレが分岐ポイントの読み違いをした要因の一つだと思います。つまり、勘違いと思い込みが今回の最大原因だったということですね。地図を使うにはちゃんと縮尺を確認して使わなくちゃイカんということですね・・・反省・・・。
その他の【山の失敗談】シリーズ
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【失敗談】番外編《勘違いの章》
今回は僕自身の経験では無く、父が経験したことです。自分の経験ではないので、ここに書くべきか悩みましたが、チョットした勘違いが、遭難を引き起こしてしまう可能性があり、しかも、それは、誰でも被害者になり、加害者(と言っても、決して悪意がある加害者ではなく、善意の加害者なんですが)になるかも・・・というようなことなので、書くことにしました。 -
【失敗談】迷走編《世附権現山〜ミツバ岳の章》
自分もここの山域でルートミスした事があるのを思い出しました。具体的に亡くなられた方がどのようなコースを辿っていて、何処で迷われたのかは分かりません。しかし、この時のはいつもより象徴的だったですし、あぁ〜、人ってこうやって誤ったルートに入って行くんだなぁ。と思える内容でしたので、詳しく書いてみたいと思います。 -
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僕が初めて富士山に登った(登ろうとした)のは、2006年06月のことでした。それは山登りを始めてまだ半年程度しか経っていない頃のことです。今回はその時のお話です。 -
【失敗談】ビバーク編《灼熱地獄の章》
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【失敗談】テント編《風の悪戯の章》
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【失敗談】テント編《骨折の章》
大抵のテントにはその型を維持するための骨(ポール)があります。スリーブにポールを通すもの、ポールにテントをぶら下げるもの、中には、トレッキングポールや木の枝をつっかえ棒のように使うものもあります。例外的に細引きだけでテントを維持させる場合もありますが、まぁ、これは特殊な場合ですね。 -
【失敗談】テント編《逆襲の章》
今回お話するのは失敗と言うより、考えがいたらなかったっていうお話です。僕にもう少し想像力があれば、もしかしたら避けられたかもしれないってことですね。 -
【失敗談】暗黒編
大抵の登山地図にはコースタイムが書かれています。そこそこ山登りの経験のある人なら、自分の運動能力と照らし合わせて、そのコースタイムに対してx0.8とか1.2とか掛けて自分のタイムを割り出して、山行計画を立てたりします。 -
【失敗談】炎上篇
今回は炎上編です。火にまつわる失敗談です。火にまつわると言っても、テント内でバーナーを使って、テントが丸焦げになったとか、カミナリに撃たれて丸焦げになったとか、山頂火口のマグマに落ちて丸焦げになったとか、そんな話ではありません。