- 01 初の海外旅行ー出発ー
- 02 米国上陸&マンモスレイクスへ!(前編)
- 02 米国上陸&マンモスレイクスへ!(後編)
- 03 パーミットを取得してレッズメドウへ行こう!
- 04 ジョン・ミューア・トレイル1日目 ついに念願のジョン・ミューア・トレイル
- 05 ジョン・ミューア・トレイル2日目 千の島の湖を越えて
- 06 ジョン・ミューア・トレイル3日目 ドノヒューパスを越えて
- 07 ジョン・ミューア・トレイル4日目 カセドラルピークを仰ぎ見て
- 08 ジョン・ミューア・トレイル5日目 最後の登りからの長い長い下り、そして、ヨセミテ 公園へ
- 09 初心者ジョン・ミューア・トレイル・ハイカーの長い長い1日ーこの旅最大のピンチー(前編)
- 09 初心者ジョン・ミューア・トレイル・ハイカーの長い長い1日ーこの旅最大のピンチー(後編)
- 10 初めての海外旅行の終わりー帰郷ー
7日目(ジョン・ミューア・トレイル最終日)起床
5時半起床。最終日の緊張なのか、いつもより早く起きてしまった。今回のトレイルでは基本的に7時30分出発を心掛けていたけど、今日はもう少し遅くてもいいかな? と思っていた。ので、のんびり準備する。
朝食はコーヒーとパワーバーで簡単に済ませる。
7時50分出発。お隣さんはすでに出発しているようだ。体調は万全、しかも身体は軽い、なんて事はないか・・・(^_^;)
最後の登り
歩き始める。しばらくは平坦な道が続く。しだいに傾斜がついてくるが、それほどキツくはない。登りにしてはかなりペース良く歩けている。
若い女性のソロハイカーとすれ違う。「Good morning!」と、すれ違おうとすると、ハイ・シェラ・キャンプ場まではあとどのくらい? と聞かれる。昨日のハイ・シェラ・キャンプ場からテント場までの時間と、今日の出発してからの時間を足して、約1時間だよ。と答える。本当は1時間弱と言いたいところだが「弱」が言えなかった。後で考えてたら約50分だよ、とか、約40分だよ、と答えればよかったんだ。とっさに言い換えられない。会話に慣れいないせいだ。すると、ピークまであと少しよ。と言われ一瞬、何のことか分からなかったけど、すぐに最後のピークのことだ、と気がつく。笑顔で「Thank you!」としか答えられない自分が情けない。
しばらく歩くと今度は2人組の男性ハイカーとすれ違う。再び「Good morning!」と挨拶すると、もうすぐ、長い下りが始まるぞ! と声を掛けられる。再び!とっさに「Yeah!」としか答えてられない。つくづく情けない。こっちが長い下りの始まりなら、その人達は、長い登りの終わりだってことなので「Congratulations!」的なことを言いたかったけど、言えなかった。重ね重ね情けない。
最後のピークからの長い長い下りの始まり
しばらくは、先ほどはどう言えばよかったのか考えていたけど、すぐに最後のピークらしきところに出た。今日のスタートから約40分、思ったより早いぞ。なだらかなところなので、本当にここが最後のピークなのかGPSで確認した。確かにここが最後のピークで、ヨセミテ公園まで、約1,800mの下りだ。もうすでにヨセミテ公園には入ってはいるけど、やっとゴールのヨセミテ公園が見えた思いだ。
下の写真の右がGPSで確認しているところ。現在とんがった先にいて、右下のハッピー・アイルに向かって急な下りが始まるところ。
早速、下りが始まる。やはり下りなので気分は楽だ。でも、怪我はゴメンなので、慎重に歩を進める。すぐにジグザグの下りが始まる。傾斜もそこそこある。こんなところを20kmも歩くのかと思うとゾッとする(実際には平坦なところも結構あるし、少しの上りもある)。先ほどのお気楽な気分はぶっ飛んだ。逆にJMTを南下ルートでスルーハイクすると、ここを登らなくてはならないと思うと、、、。もし、今後スルーハイクのチャンスが訪れたとしても、ここのことを考えると、ちょっと躊躇してしまいそうだ。知らなきゃよかったのかもしれない。
長いジグザグを降り切ると、歩きやすいトレイルになる。相変わらず樹林帯の中だが、やはり日本の森とは全然違う。と言うのも、この辺りはほぼ針葉樹の森になっている。たまにカエデ系の広葉樹も見るが、圧倒的に少ない。日本のような照葉樹はほぼ見ない。それに、日本の針葉樹林帯は薄暗いイメージがあるが、ここでは、樹間が広いせいか、かなり明るい。
マンモス・レイクスの街中でも見たが、この辺りの松ぼっくりはさらにデカイ。こんなものがその辺にゴロゴロころがっている風景は思わず笑ってしまう。
燃えた樹々
やがて、視界が開ける。よく見ると、木は立っているけど樹皮は黒く焼けている。カリフォルニアで有名な山火事の跡だ。ニュースとかで見たことはあったが、実際に見るのは初めてだ。よく見ると、見渡す限りの樹々の樹皮が黒く焼けている。それこそ、東京ドーム何個分なんてレベルではなく。◯◯市とか◯◯県の広さと比較されそうだ。
しかし、これだけ立ち枯れの樹々があるにもかかわらず、死のイメージは無い。それは、すでに次の世代またはその次の世代が育っているからだ。足元を見ても、青々とした葉があり、色んな花が咲いている。自然は元に戻ろうとしている。
以前、森林の勉強をしていた時に、日本の草木を知っていれば、世界中のどこへ行っても、ある程度は見分けることができる。と先生が言っていたのを思い出した。確かに樹や草の名前は分からないが、日本の◯◯の仲間だな、と推測できる。それだけ日本は植生が豊かな国だってことだ。
やがて渓谷のフチのようなところを通り、ゆるゆると下っていく。窪地のようなところでは、水が豊かなのか、足元の草が腰ぐらいまで成長して、プチ藪漕ぎを余儀なくさせている。色とりどりの花も咲いている。小さな小川があったので、ザックを下ろして休憩&水補給をする。この辺りはあまり人と合わない。
しばらく進むと、デーブルのような岩があるところで、若い男性がいた。背負っているザックもそれほど大きく無いので、てっきりデイハイカーが休んでいるんだと思い、いつものように挨拶をして通り過ぎようとしたら、呼び止められた。何だ? と思いよく見ると、(服装が)レンジャーだった。何か矢継早に喋っている(怒っていると言うより、世間話をしているようだった)ので、面倒になり、英語はあまり得意じゃ無いんすよ。と言ったら、パーミットを見せろと言う。
パーミット証はサコッシュに入れてすぐに取り出せるところに入れているのですぐに出して見せた。ふんふん、と記載内容を指でなぞりながら、いいルートだね、と言いながら、パーミット証を返してきた。僕も受け取りながら、はい、ここは最高の場所ですね。と言ったら、何か喋っていたけど、そもそも結構な早口なのであまり聞き取れなかったけど、おそらく僕の意見に同意していたんだと思う。
レンジャーさんと別れて、ふと思い出したことがあった。以前、加藤(則芳)さんとアメリカのレンジャーと日本のレンジャーの違いについて話したことがあった。アメリカのレンジャーについて語る加藤さんは時間が過ぎるのも忘れて熱く語っていた。まさか僕が、そのレンジャーさんと実際に会う日が来るとは、その時は想像することすら出来なかった。
そこを離れるとすぐに、再びのジグザグの下りが始まり、目の前に大きくハーフドームが見えてきた。ハーフドームはMacの壁紙でいつも見ているけど、今、目の前に見えているのは角度が違うので、いつものハーフドームとは形が違うけど、本当に自分はここまで来てしまったんだと、感動するより驚いている自分がいる。
再びデカイ松ぼっくりがあった。右側のは僕の足よりデカイので長さが40cm近くはあるんじゃないだろうか? ちなみに松ぼっくりは英語で「Pine Corn」と言います。
やがて樹林帯に入り、ジグザグが続く。しばらく下るとハーフドームへの分岐(2.0マイル)がある。ここを越えると途端に人が多くなる。人の声も多くなり、騒がしくなる。今までが静かだっただけに、急激に現実に引き戻された感じがした。
それにしても、ヨセミテ公園のハッピー・アイルからハーフドームまでのピストンって相当ハードそうだぞ。ネバダ・フォールまでの登りもキツいけど、そこからさらにここのハーフドームまでの分岐、そして、ここからハーフドームまでだってまた、2マイルもあり、さらにハーフドームへの取り付きから登りと考えただけでヘトヘトになりそうだ。
ジグザグが終わり、平らで広いところに出た。しばらくそのまま道なりに進むと左に建物が見えてきた。トイレのようだ。さらに進むと川にぶつかりトレイルは右に曲がり、川沿いの道を進む。人はさらに増えて、軽装の人もいる。そろそろゴールか?
川沿いの道を小さなアップダウンを越えると正面に小さな建物(トイレ)が見えた、たくさんの人が周りで休憩している。僕もその一角でザックを下ろし、休憩する。標高が低くなったせいか、気温が高い。一度腰を下ろしたら再び立ち上がるのが億劫になる。地図で場所を確認すると、ミスト・トレイルとの分岐のようだ。すると、あと少しでネバダ・フォールだ。名前は聞いたことがあるけど、ビジュアルはさっぱり思い描けない。何度も立ち上がって出発しようとするが、なかなか出発できない。再び腰を下ろしてしまう。疲れてるのだろうか? そもそも、僕は体温が上がると思うように行動できなくなる傾向にある。今までは標高が高かったので、気温も低く、まだよかったけど、標高の下降と共に気温が上がってバテて来たのかもしれない。あと少しなんでなんとか頑張ろう。結局、立ち止まって水を飲む程度の小休止のつもりが中休止になってしまった。
ネバダ・フォール
10分以上休んで、重い腰を上げ、やっと再出発する。なかなか再出発出来なかった理由の1つが疲れただけではなく、これから進むルートが見えてそのルートが登りになっているからだ。といっても、緩やかな坂程度の登りで普段ならたいしたことは無いけど、基本的に下り基調のルートなのでもう登りは無い、と頭と身体が登り坂を拒否している。ほんの1メートルの登りでもウゲ〜ってなってしまう。いっそのことトレイルヘッドから下りになっているミスト・トレイルで下ってやろうか、という思いも頭をよぎる。でも、まぁ、それは無いよな〜と、重い腰を上げる。
ほんのちょっと登ったらすぐに下りになる。地面が白く照り返しが激しい。基本的に下り基調だけど、少しの登りもある。元気なときなら何でもない程度の登りだが、今はきつい。小さいアップダウンを繰り返して人が大勢いる広いところに出た。川も流れて頑丈そうな橋も掛かっている。下流側を見ると水が空中に消えている。えっ!? って思ってよく見ると、滝の落口だ。水はそこから90度下に流れてる。まさに断崖絶壁。滝の落口にも川にも柵のようなものは無い。滝の上流の川はかなり激しく流れているので、足でも滑らせようもんなら、あっという間に流されて空中に放り投げられてしまうんじゃないだろうか?
滝の落口ギリギリに人が立っている。あそこまで行けるのか? でも、さすがにその勇気はない。遠くで眺めているだけだ。
水も心細くなってきたので、川の水を補給しようとするも、流れの速いところから取るのは危険なので、端っこの方の淀んだ水を汲む。イマイチ生ぬるいが仕方ない。ここまで来て危険を犯す勇気は無い。いや、ここまで来なくても、危険を犯す勇気は無い。
10分ほど川の流れを見て、涼んだところで再出発する。今度こそ最後の休憩になるかもしれないので、気を引き締める。ここは断崖絶壁の縁なので、どこから下るのか分からなかったけど、人の流れを目で追うとある方向に人が流れている。そして、そこからも人が来る。結局、この滝が削った左右の断崖の左岸側を下るようだ。どんな風に道が付けられているか興味津々だ。
初めは緩やかなアップダウンが続く。この辺りは一般の観光客が多く、僕のように大きなザックを背負っているのは、自分意外ではお父さんと娘さんと思われる1組だけだった。突然のアウェイ感でいっぱいだ。
道は明らかに人工的に作られているような道だ。断崖絶壁を削って作ったのだろう。黒部峡谷の下ノ廊下をもっと広くして馬も通れるようにした感じだ。広いので高度感はゼロだし、下ノ廊下ほどのスリリングは味わえないけど、断崖絶壁に人が通る道を作ったという意味で、人間ってすごいと思う。
やがて、ネバダ・フォールが一望出来るビューポイントに来た。あまりにものスケールの大きさにポカンと見とれていると、女性2人組に写真を取ってくれと頼まれた。両手はストックで塞がれていたので、山側の壁にストックを立て掛けて、写真を撮る。すごくニコニコして写真を取ったお礼をしてきたので、こちらも気分が良くなる。で、あとで大事なことに気がつく、ついでも僕も写真を撮ってもらうべきだった。気分が良くなっている場合ではなかった。他の人に声を掛けて写真を撮ってもらおうかとも思ったけど、ちょうどその時、周りは中南米や中国の人ばかりで、なんか声を掛けづらかった。この意気地無しが・・・。
大きく、本当に大きくジグザグに道が作られ、これ、いつまで続くんだろう? という疑問が続く。というもの、先程からずっと下っている割に、標高が下がっている感がまるで無い。ひたすら下る。途中でいくつかの分岐もあったけど、目指すはハッピー・アイルだ。やがて、木々が濃くなり、水の音が大きくなって来たような気がする。地図を見ると、谷の底に流れている(ネバダ・フォールから落ちた)川の向こう側(右岸)に渡ることになっているので、やはり、一度谷の最深部までは下らなくてならないと思う。が、なかなか着かない。
ネバダ・フォールを後にして長い長い坂を下り1時間15分、やっと谷の最深部に着いた。
谷の底に流れている川(マーセド川)を渡る橋のたもとに、(上高地のバスターミナルの水場のような)水を補給出来るところがあった。これからネバダ・フォールに登る人にとっては最後の補給ポイントになると思う。僕も最後の補給をする。ふと、ここの水って浄水しなくていいんだよな? と周りを見回すと、普通に飲んでいたので、僕もそのままガブ飲みする。
橋を渡る。ゴールまではあと少し。しかし、緩やかながらも登りになる。ウゲ〜って思いながら一歩一歩進む。ゴールはすぐそこだ。スルーハイクはなかわなかったけど、僕にしてみると普通の人にとってのそれ以上の経験だった。
ハッピー・アイル
確実にゴールに近づいている。感動で目の前の景気が歪む。ゴールしたら僕はどうなってしまうんだろう?
元の僕に戻れるのだろうか? いろんな思いが頭を過ぎる・・・、などと、ブログでゴールのシーンはどう感動的に書こうかな? なんて事を考えながら、その時は急に訪れた。まさしく急にだ。ボーッと歩いていたら気が付かずに通り過ぎていたかもしれない。
それは反対側を向いて立っていた。南下ルートで歩く場合はよっぽどボーッと歩いてなければ見逃すことは無いと思うけど、僕が歩いた北上ルートでは裏側しか見えず、ちょっと気付きにくい場所にある。たまたま、振り向いたから気がついたようなものの、いつものようにボーッと歩いていたら、気付かずに通り過ぎていただろう。
このJMTの全ルートの中でも、Mt.ホイットニー、ミューア・ハット(今回はどちらも行けず)と並んで(僕にとって)大事なポイントのハッピー・アイルにある道標だ。特にここがスタート地点というわけでも無いと思うけど、大事な場所だ。加藤さんの本でもジョン・ミューア・トレイルの出発地点で記念撮影、とある。なので僕もここで写真を撮りたかった。しかし、加藤さんが歩いたのは25年も前のこと、道標の形が違うし、おそらく位置も変わっていると思われる。しかし、道標があるのは知っていたので、是が非でもここで写真を撮りたかった。ネバダ・フォールなど、どうでもよい。
人がたくさん歩いているので、わざわざ三脚を立てて自撮りをするのもアホだし、腕を伸ばして撮っても道標は全て入らない(道標から離れれば撮れるかもしれないけど、それでは内容が読めない)。なので辺りを見て写真をら頼めそうな人を探す。さすがに露出している肌全てにタトゥーをしている人には話しかけにくい。ちょうど若い女の子4人組がやってきたので、カメラを差し出しながら、その中の1人に向かって
「くぢゅーていくあぴくちゃーおぶみぃ?」
と声を掛ける。初めは聞き取れなかったようで(僕の英語に問題あり?)もう一度言おうとしたら、別の女の子が理解してくれたようで、
「いいですよ〜」
とカメラを笑顔で受け取って撮ってくれ、念のためともう1枚撮ってくれた。感謝、感謝。
あ〜、英語がうまく通じなかったなぁ。って思ったりもしたけど、ここの写真だけは外せないし、もはや、ここの写真を撮りに来たって言っても過言ではないと思っているので、多少英語が通じなくても目的は果たせたので気にしない。旅の恥はかき捨てである。わっはっは!
道標を越えると、すぐに大きな通りに出る。人がたくさん歩いている。あぁ〜、僕のJMTは終わったんだ。と実感した。
バックパッカーズ・キャンプ・グラウンド
さすがに真夏のヨセミテ公園だ。人がウジャウジャいる。男性、女性はもちろん、若い人、高齢の人、肌の白い人、黒い人、黄色い人、いろいろな国の人がいる(ミスト・トレイルとの分岐辺りから、いろいろな国の言葉が聞こえた)。
ハッピー・アイルと書かれた案内板の前でザックを下ろして休憩する。
さて、今日泊まる予定のキャンプ場に行くか。と思い、地図で場所を確認する。しかし、ざっくりとした場所しか分からないので、なんとなくその方向に向かって歩く。
始めは地図の通り車道で向かうつもりだったけど、PINE CAMPGROUNDと書かれた道標を見つけ、そういえばバックパッカー用のキャンプ場はそんな名前の場所にあるんじゃなかったっけ? と思い、その道標に従うことにした。それは車道を外れて、それほど大きくない川沿いに付けられたトレイルの奥を指している。
そのトレイルではほとんど人とは合わず、たまにサイクリングを楽しんでいる人とすれ違った。左手側に流れている河原ではたくさんの人が楽しんでいる。
しばらく歩くと、再び車道に出た。あれ? って思ったら正面にキャンプ場の入り口があった。
さて、ここからが問題だ。恐らくこの奥にバックパッカー用のキャンプ場があるのは間違いなさそうだが、詳細な位置は分からない。とりあえず入場して中をウロウロ探すにはアメリカのキャンプ場は広すぎる。おおよその位置だけでも確認しなくては効率が悪すぎる。
トゥオルミー・メドウのキャンプ場のような入り口(?)の建物のようなものはないのか? と、とりあえずキャンプ場に入る。しばらく歩くとトゥオルミー・メドウのとそっくりな建物があった。
その建物に近づいて中を覗き込んでみると、白髪で白く長い髭を蓄えた、やたら雰囲気のある人おじいさんが座っていた。その人にバックパッカー用のキャンプ場の場所を聞く。拙い英語だけど、大きなザックを背負って、歩いて入場して来たってことで、その目的は一目瞭然だったと思う。なので、聞き返されることもなく、指を指しながら説明を始めたけど、すぐに、こいつ英語わかんねーな、と思ったのか、傍にあったiPadを取り出して、指でシュッシュッと操作して画面に一連の画像を出した。
その画面に映っていたのは、バックパッカー用のキャンプ場に行くまでの各分岐の写真だ。写真を指で送りながら、ここを右に行って、ここを道沿いに・・・、なんて説明していたと思うけど、半分くらいしか聞き取れなかった。しかし、方向と、最後に橋を渡るというのが聞き取れたので、何とかなるでしょう。
そして、ここでも念のためHow much? と聞く。これは、値段を聞きたかったのでは無く、お金の払い方を確認したかったからだ。世界的に有名なヨセミテ公園なので、もしかしたら、今までのキャンプ場とは違う方法かもしれないので、確認の意味で聞いた。すると、6ドルと言う答えが返ってきた。すかさず後ろポケットからお財布を取り出す仕草をすると、それを制してキャンプグラウンドで封筒に入れろ、と言っている。やはりレッズメドウ、トゥオルミー・メドウのキャンプ場と同じだ。そうだろうなぁ〜、とは思っていたけど、改めて聞くのはハードルが高いので、会話の流れを利用して確認した。
お礼を言って、キャンプグラウンドに向かう。確か、ここは右だったよな、あれ? こんな分岐あったっけ? などどウロウロしたけど、大雑把な方向は分かっているで、少し遠回りしながらも、目当ての橋が見えた。それを渡った左前方に、バックパッカー用のキャンプグラウンドは広がっている。それほど広くは無い。しかも、良さげなところはすでにテントが張ってある。ここは標高も低く、気温も高いので日影が良かったけど、考える事は皆んな一緒だ。すでに日影は占領されている。仕方ないので、太陽の動きを読み、これから日影になりそうな場所を確保する。
テント設営完了。やる事はさっさと済ませようと、まず、利用料を払う。基本的に今までと同じだ。しかし、封筒に書く項目のウィルダネスパーミット番号の書式が、自分の番号と違う。恐らく、ここはヨセミテ公園なので、ヨセミテ公園で発行されたパーミット番号を書くようになっているんじゃないだろうか? しかし、僕が持っている番号はインヨー国立公園で発行されたものだ。でも、まぁ、パーミット番号を書けばいいんでしょって事で無理矢理書く。
確か、ウィルダネス・パーミットを持っていればその前後一泊はここに泊まれる資格があるはずなので、ちゃんと番号を書けば大丈夫でしょう。
利用料を支払ったら、今度は水を確保する。ここのキャンプグラウンドはトイレしか無い。水は先程渡った橋の下の川で採取する。もちろん、浄水する必要はある。
疲労困憊
水筒と浄水器を持って、川に向かう。ここで、自分の身体の異変に気がつく。あれ? 身体が思うように動かない。歩くのがつらい。身体中に鉛が入っているようだ。それでも最後の力を振り絞り、水を水筒の2/3(1,500ml)だけ確保した。とても満タンにする体力は無い。第三者の目で見たら、両手をらダラリと垂らして、足を引きずるように歩く姿はリアルゾンビだったと思う。恐らく無事にゴール出来た事による安心感から、疲労が一気に噴出したんだと思う。
何とかテントに戻ってきて、その中に転がり込む。一刻も早く横になりたい。しかし、テントの中はサウナ状態だ。出入り口を全開にしても、あまり変わらない。陽が傾いて日影になるのを待つしかない。
極度の疲労と、地獄の暑さで、テント内でじっとして横になるしかない。エアマットを膨らます元気は無い。ウレタンマットを持ってきていた自分を褒めてやりたかった。最後の力を振り絞って、ウレタンマットの上に横になる。枕もまた膨らます元気は無いので、衣類の入ったスタッフバッグを枕代わりにして横になる。
やがてテントは日影に入ったけど、あまり気温は下がらない。夜の9時を過ぎて辺りが暗くなるとやっと、テント内も過ごしやすくなった。夕食はどうしようかと思う気持ちもあるけど、つくる体力も無ければ、食べる元気も無い。
最後の力を振り絞り、シュラフをスタッフバッグから引っ張り出す。これで完全に最後の体力を使い切った。夜になったからと言って、決して気温が下がったわけでは無い。シュラフが無くても十分にすごせそうだけど、お腹の上だけに掛けた。
明日は、サンフランシスコ市内に戻り、空港近くのホテルにチェックインしなくてはならない。長い一日になりそうな予感がする。ので、なんとか今晩中に体力を回復させたい。
よっぽど疲れていたのだろう、あっという間に寝てしまったようだ。その代わり夜中に目が覚めてしまった。先ほどまで騒いでいたキャンパーたちもすっかり静かになっている。時計を見ると夜中の12時を回っていた。まだ、起きるには早すぎるので、明日の行動予定を頭の中で反芻する。明日は何事も無く、無事にサンフランシスコに到着出来ることを願いつつ、再び深い眠りについた・・・。